宮崎弘隆の精製所レポート2 – コーヒーの品質改善
2018.08.16
こんにちは、LIGHT UP COFFEEの宮崎弘隆です。
精製所での滞在も後半戦。前回の記事ではこの精製所の紹介にとどまりましたが、今回は私達の活動をもっと詳しくお話ししようと思います。
バリ島での活動
ここではコーヒー精製の全工程を精製所の現地メンバーと一緒に行っています。
主体となって精製を行うのは精製所責任者のパ・コチョンと彼のお兄さんと僕の3人。また、精製に参加しながら精製工程の監督も同時に行なっています。
新しくつくった精製所なので、メンバーの方達はまだコーヒー生産の知識がなく、1つ1つの工程が正確に出来ているか確認し、場合によってはフィードバックをしながら、一緒に生産に取り組んでいます。
私達がいなくても素晴らしいコーヒーを作り続けてもらうためです。
▲常に問題点・改善策を探り、試行錯誤は怠りません。
主な精製工程はパルピング、発酵、水洗、乾燥の4つに大きく分けられますが、私達はその前に“ソーティング”という大事な作業を行っています。
美味しいコーヒーのために、赤く熟したチェリーのみを使いたいのですが、農家さんから仕入れたコーヒーチェリーを見ると未熟な豆や過塾な豆がどうしても混ざってしまっています。
▲農家さんから買ったコーヒーチェリー。ザルに出してみると少なからず未熟豆が入ってしまっています。
熟しきっていないコーヒーチェリーはあまり甘みも香りもないので、テーブルに広げてチェリーの選別をします。
熟度の足りないチェリーは別のグレードのコーヒーとして生産します。
かなりの時間と労力を必要としますが美味しいコーヒーのためには欠かせない工程です。
▲これは僕が1人でソーティングしたチェリー達。50kgのチェリーをソーティングするのに3時間半かかりました。
そしてパルピング。皮むきの工程です。
パルパーという機械を使ってコーヒーチェリーの皮を取り除いて種を取り出します。
パルパーは使用する度に水でしっかり洗い、衛生面も徹底します。
▲仕事熱心な彼はパルピング中にも見逃した質の悪いチェリーがないかチェックしています。
パルピングの次は発酵です。
ここではドライ発酵といって、取り出したコーヒー豆を水を使わずに袋に密閉して寝かせて発酵を行います。
発酵の度合いはph計を使って数値で判断します。
▲適切に発酵できたコーヒー。密封された袋は発酵によって出るガスでパンパンに。
▲ph計を使って適時に数値をチェック。
発酵が終わると豆にまとわりついている粘液を洗い流すために綺麗に水洗します。
透明感あるクリーンなコーヒーを作るために大事な工程です。最低でも2回水を変えて、洗っても水が透明になるまで洗っています。
▲粘液がまとわりついたコーヒーをしっかりと洗うとこんなに水が汚くなります。この後また水を変えて洗います。
▲水を2回変えて、最後は洗っても水が濁らなくなるまでになれば水洗終了です。
最後に乾燥。水洗が終わるとそのままグリーンハウスに運ばれます。
インドネシア語でパラパラと呼ばれる乾燥台に広げ、適切な水分量に乾燥するまで待ちます。
天候はコントロールできませんが、温度計、湿度計をそれぞれのグリーンハウスに設置してドアの開閉で出来る限り温度湿度を適切に管理しています。
コーヒーの水分量は水分計を使って数値で測っています。
▲それぞれのロットの水分量を適時計測して乾燥が順調にされているかチェックします。
▲天気の良い日には昼頃になるとかなり高温に。50度以下にするため両脇の出入口を開けて温度管理しています。
基本的にはこのような流れでコーヒーの精製を行っていますが、今回は適正に精製されたものと比較するため、あえて適切でない精製をしたサンプルもいくつか作ってみました。
それぞれの精製工程が与える影響の大きさを見るためです。
▲1回しか洗わずそのまま乾燥に移したもの、未熟豆のみのサンプルなど、10種類弱。
また、画期的な精製方法を見つけるために今回は実験サンプルもつくってみました。
全てはアジアの環境・素材で一番美味しいコーヒーを作るため。
▲白いタンクで発酵中の秘密のサンプル。どう味わいが変化するのか楽しみです。
コーヒーの情報管理
コーヒーの生産の情報は非常に大切です。安定して良いコーヒーを生産し続けるため、また品質の確認、なによりも安全性や信頼感のために。
今回は、わかる情報は全て記録して管理するようにしています。
チェリーが収穫された日時、パルピングされた時間、発酵の度合い、発酵時間、乾燥の度合い、時間などなるべく全て記録しています。また、このキンタマーニ地区には30以上の農園があり、精製したチェリーがどこの農園のチェリーなのか、品種は何が植わっているのかも記録します。
興味深い農園があれば実際に農園を訪問しどのようにコーヒーが育てられているか観察したり。
出来る限りの情報を記録することで、出来上がったコーヒーの品質が生産工程のどこに起因しているか分析でき、それがコーヒーの品質向上につながるはずです。
▲毎日こまめにデータを取りながらコーヒーの生産に取り組みました。
アジアで最高に美味しいコーヒーを作るために
アフリカや中南米などで生産される世界的にハイレベルなコーヒーと比べると、今までアジアのコーヒーというのはどうしてもそれよりも品質が下のイメージが強くありました。
どうすればここでより高品質なコーヒーを生産できるのか。
すぐに変えることができて、何よりも大事なポイントは“コーヒーチェリーの熟度と徹底した精製だと思います。
▲完熟のコーヒーチェリーはとても美しい。
コーヒーの品質にとても大きな影響を与える標高を考えてみると、コロンビアやケニアなどの農園の標高は2,000mほどにもなりますが、アジアではどうしても1,500m以下が一般的。天候も乾季と雨季は分かれていますが、アジアは特にここ最近天候が不安定になることが多いです。
コーヒーの品種を考えてみると、アフリカや中米で育てられている、評価の高い品種に比べ、バリ島で育てられている品種は聞いたことのないローカル品種やハイブリッド品種が多く、「ゲイシャ」などの品種の力で勝負するのは難しいと言えるかもしれません。
そこで、一番勝負できるポイントして考えたのがこの熟度と精製です。
チェリーの熟度が高いほどチェリーの糖度も高くなり、これがコーヒーの甘さにもつながります。
農家のピッカーさん(コーヒーチェリーを摘む人)に完熟のコーヒーチェリーのみを摘んでもらうようにお願いし、それでも入ってしまう未熟チェリーはソーティングで厳しく選別することで、とにかく熟したチェリーだけでコーヒー豆を生産しようとトライしています。
▲バリ島ローカル種のCOBRAという品種。たくさんの実が密集して実っているため、未熟なものと完熟なものが隣り合わせになっている事が多いのです。赤い実だけを摘むということはそう簡単なことではありません。
次に徹底した精製。
チェリーを収穫してから生豆にするまでの後処理の工程ですが、風味にとっても影響のある工程なんです。
例えば、発酵工程で十分に発酵させれば、複雑で豊かなフレーバーが生まれます。そこを怠ってしまうと単調で薄い風味になってしまいます。
水洗に関してはコーヒーの透明感に繋がります。丁寧に洗われたコーヒーは綺麗な味わいになりますが、水洗が不十分だと、雑味の残るコーヒーになってしまいます。
こうした精製の質によって、コーヒーの質もかなりコントロールできるのです。
▲しゃがみながら手で丁寧にしっかりと洗っています。腰は痛くなりますが、美味しいコーヒーの為なら平気です。
今私たちにできることは、まず熟度と精製の質を徹底させて品質レベルの底上げをすること。
まだ陽の光を浴びていない未知のコーヒー農園で、現地の方々と一緒に新しいコーヒーの生産に取り組み、それが美味しく仕上がることで、農家の方の生活向上、そしてコーヒーを飲む人が感じる豊かさ、この両方に貢献できたらとても嬉しく思います。
美味しくできたものはLIGHT UP COFFEEでも扱う予定です。
これからのアジアのコーヒー生産の発展と私たちの取り組みにご期待ください!
宮崎弘隆
LIGHT UP COFFEE
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