コーヒーの知識 Vol.6 – 美味しさへの論理的なアプローチ

2021.06.06
サムネイル

コーヒーの淹れ方や焙煎の方法と聞いて、感覚的な判断、職人的な技術等を思い浮かべるかもしれませんが、私たちはできる限り論理的に考えることが大切だと思っています。今回はそんなコーヒーの味への論理的なアプローチについてご紹介したいと思います。

 

論理的なアプローチとは?

コーヒーショップで大切にしていることはお店によって異なりますが、私たちは安定しておいしいコーヒーを伝え続けるために2つのことを大切にしています。それは再現性と仮説検証です。

再現性というのは、同じことをもう1度繰り返すことができるということです。例えばエスプレッソの味をとっても、前回は少し味が濃かった、今回は少し味が薄かったということが起きないように、常に同じ美味しさを提供し続けることが大切だと考えています。そのために、淹れる人が変わっても、豆の焙煎日からの経過が変わっても、豆の種類が変わっても、常に同じように美味しく調整できる必要があります。香りや味の感覚だけではなく、温度・時間・挽き目といったレシピを数字で管理した上で調整を行なって、味を確認してから提供しています。

 

 

もう1つの仮説検証ですが、今よりもさらに豆ごとの個性や美味しさを引き出す焙煎・抽出ができないか、と常に考えるようにしています。先程のエスプレッソの例だと、淹れたエスプレッソが数字上は適正であっても、少しだけ青臭い時、少し苦味がある時、もっと果実感を甘く伝えたい時といったように、現状よりさらに理想の美味しさへ改善できる可能性に気付くこともあります。このような時には、まず現状の課題を認識して、それを修正するレシピの仮説を立て、実際に修正のレシピを試し微調整を行っていきます。

このような、誰が淹れてもどの豆でも常に美味しいという再現性と、品質のコントロールを定量的に行い、仮説検証を行っていくことで、品質の安定および向上を実現できると良いと思っています。次に、実際にどのように論理的にコーヒーの味の再現や仮説検証を行っているかを説明したいと思います。

 

 

焙煎のコントロール

焙煎の工程では、焙煎での温度変化と時間を細かく記録した焙煎ログをとっています。焙煎レシピはこうした温度と時間のデータや、豆の情報をベースにして作成していきます。新しい豆を焙煎する際、まず過去に焙煎した似たような品種、標高の豆の焙煎ログを参考にし試し焙煎を行います。そして、焙煎後の時間経過に伴う味の変化を確認していきます。ここで大切なのは、焙煎自体を行う時間ではなく、カッピン グをして議論を行う時間です。コンセプトとしている、「豆の個性を大切にし明日も飲みたいと思えるような美味しさのバランス」が実現できているか、仮説検証を行うことが重要です。

 

 

私たちは毎週決まった曜日に、1ヶ月分の焙煎したコーヒー豆をまとめてテイスティングしています。温度を0.5度あげたほうがいい、合計時間を10秒短くしたほうがいい、といった議論をしながら、豆ごとの個性が心地よく伝わる焙煎レシピをアップデートし続けています。

 

焙煎の数字の例(ルワンダのコーヒー豆)

投入温度:170℃ 1ハゼ:7:53 終了時間:8:34 終了温度188.0℃

 

 

抽出のコントロール

コーヒーの抽出では、味に影響を与える変数は何があるのかをまず把握します。ドリップの場合での変数は、挽き目、注ぐ時間、お湯と粉の量の比率、お湯の温度、注ぐ勢い、ドリッパーの種類、などが挙げられます。この時に、これだけたくさんの要素をコントロールするのはとても複雑で難しいので、できる限り変数部分を固定していき、1つだけの変数をコントロールするようにしています。まず温度は沸騰したお湯をケトルに移してすぐ使用。注ぐ勢いも毎回バリスタごとに決まったペース配分の注ぎ方で、同じ1:30〜2:00の間を指標として豆ごとに同じ時間で注ぐようにし、粉の16〜17倍のお湯を使い、最終的に挽き目だけで味の出具合を調整をするように変数を絞っています。そうすることで、今の味に対して挽き目を粗くする、細かくする、の2択でわかりやすく調整ができる上、結果が美味しくなっていく可能性も高くなります。これは家でコーヒーを淹れるときにもぜひ使ってもらいたい方法で、いつも同じレシピで淹れ、挽き目で味の調整ができると、お店のように美味しいドリップが淹れられるようになるはずです。

 

抽出の数字の例(ドリップ)

温度:93℃

蒸らしに使うお湯:35g

攪拌:10回

挽き目:豆に合わせて調整

蒸らし時間:30秒

注ぎ時間:1:45

落ち切りの時間:3:00

 

 

美味しさの判断

私たちコーヒーショップは、このようにしてコーヒー豆ごとの個性が最も心地よく伝わり続けるように、味のバランスをなるべく再現性を持ってコントロールしています。とは言っても最終的に美味しいかどうかを判断するのは人です。美味しいかどうかを判断するためのお店としての基準、そのためのコンセプトを明確にするからこそ、焙煎・抽出したコーヒーが美味しいかどうか、どうすればもっと目指すべき美味しさに近づくのか判断することができます。バリスタを目指す人も、まず行うべきは自分にとっての美味しさを明確にするためにたくさんのコーヒーを体験すること。自分にとって美味しいコーヒーが明確であるほど、美味しいコーヒーは作れるのだと思います。